テキスト (創作) 050401 | ||
「便箋四枚の気持ち」 ラブレターを貰った。とても完結したラブレターで、 書きあげられると共に彼女の気持ちは終了していた。 ありがとう、と書いてあった。連絡先は書いてなかった。 僕はその手紙を破って捨てた。 それは僕のもとにとどまるべき手紙ではないと思ったからだ。 彼女の気持ちはすでに遠くにある。だから、この手紙もどこか 遠くにいくべきだ。 ★ 今日から四月なので、気持ちを切り替えよう。僕はマグカップに氷と水を入れて ゆっくりと飲み干した。テレビの中ではミュージシャンになれないミュージシャンが 自分の音楽を自慢している。魂のない音楽はすぐにわかる。なぜなら、彼らは 常に怯えているから。怯えすらしない人たちも中にはいるけれど、それはもう、 誰から見ても一目でにせものだとわかるから、わざわざ笑う必要もない。 ポカポカとおひさまが心地よい。デパスがゆっくりと身体に染み込まれていく。 安定剤や睡眠薬を飲むと、頭にもやがかかったようになるので、これが最後の薬だ。 僕は音楽のことを考える。美しいメロディーや、甘い歌声。 何度か、昔の恋人が好きだった歌を口ずさもうとする。でも、やめる。 雨がコンクリのベランダを黒く染めていく。 土の香りがする。忘れていた自然の香り。 僕は氷を噛み砕く。虫歯にしみて、歯に流れ星がコツンと当たったみたいに痛んだ。 だいたいの人は僕のことをわかっていない。僕は、だいたいの人のことを知らない。 そういうことに気付かない人が多すぎる。僕らはお互いになにひとつわかっちゃいないのに。 抱き合って、キスをして、セックスをして、スタートライン。 明りを消して、鍵を閉めて、さよならでゴール。 つまりどこにもいけずに、気が狂いそうってこと(さ)。 |
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テキスト 050403 | ||
あたしの愛する人は、その日に帰国した。 久しぶりに聞く声は、とても甘く、麻薬のようにあたしを誘惑する。 きっと、知っているんだ。あたしが彼のことをまだ好きだって。 だけど、ここで彼に未練がましいことを言ったら、今まで整理した気持ちが 無駄になってしまう。あたしは「ばいばい」と言った。 本当はずっとしゃべっていたかった。どんな関係でも、あなたのそばに いたかった。だけど、「ばいばい」って。 彼は返事をせずに電話を切った。きっともう連絡もないんだろう。 彼と会話をしなかった間に整理した気持ちが、またいちからになった。 あたしは泣くだけ泣いて、最後の希望をトイレに流した。 彼の気持ちが戻るのを待つなんてバカげてる。そんなこと、きっとありえないんだ。 わかってるよ。わかってる。わかってるはずなのに、 あたしはバカみたいに彼からの連絡を心のどこかで待っている。 なんてことないふうにしてるくせに、彼だけを求めている。 トロリとした血が出て、生理を告げた。あたしはナプキンを下着に つけながら、また泣いた。女でなければ、彼と一緒にいられたんだろうか。 人間じゃないければ(犬とかね)、彼と一緒に暮らせただろうか。 そんなことをずっと考えていた。 試しに、首輪をつけて「わん」と言ってみた。もちろん、救われなかった。 ねえ、あたしがあなたを産んだ母親だったらよかったのにね。そうしたら、 あなたのために死んだとしても誰も文句は言わないでしょう? |
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テキスト 050404 | ||
お腹が重い。頭を地面に引きずるようにして歩いています。 あなたのことを考えると、なにもやる気がなくなる。 ろくでもないやつだって思い込もうとしても、泣けてくる。無理だよ。 ろくでもなくて、あほで、ばかで、ひどくても、あたしは、あなたを、愛してるんだもの。 なにか事故であなたの身体がひどいことになっても、あたしには連絡してくれないんだろうね。 そういう身体になっても、あたしはあなたを愛するって言うのに。 それなのに、あなたはあたしと一緒にいるくらいなら一人を選ぶのだろうね。 影がぬかるみにひっかかって、あたしからプチンと離れた。 その時に気持ちが死んだ。 これから一生幽霊になって地上をさまよわないといけないと神様が言いました。 はい、わかりました。ところで神様、人類はいつ滅亡するのですか? え? 今週中に大地震? そりゃ困ります、彼は助けてくれなくちゃ。 もし本当に地震を起こすのなら、あたしを災害救助犬にしてください。 彼の髪の香りは、ずっと忘れないもの。 |
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