ログ 0310

clearloversoul*2000.10.07.LOG

『アップデート』

 ブーツを履こうかどうか迷った。きっとアナタは、そんな私は好きじゃないもの。

 スティルドラムの音が弾ける街を歩きながら、もうすぐ冬が始まるのを感じた。
 夏の終わりと共に始まった恋は、レンタルビデオを返す前に終わってしまった
けれど、私は一人で生きていくしかないんだな、なんて涙ながらに思わせる
悲しさはなかった。ああ、やっとせいせいした、だなんて135時間しか時間は
なかったのに、きれいさっぱりになった気がした。気がした。思った。気がした。
 思った。

 アナタは花が好きじゃないから私に花を贈ってくれることなんて無いと思うの。
 私も花が好きじゃないから、それはそれで助かるのだけれど。だけれど、
両手いっぱいに持ったバラの花だなんて、そんな、キチガイジミタ愛の告白を
されたいと思うのも事実。気がした。思った。気がした。思った。

 古臭い言葉だけれど、予感がしたの。アナタとなら、たくさんの恋ができる
って。私には可愛らしい男の子がたくさんいるけれど、そういうことを全て
ばからしいと思わせてくれる感じ? アナタは子供だし、お金ももってないし、
コーヒーだって紙コップが精一杯だけれど、そういうことをなんとも思っていない、
アナタの笑顔が好きなの。ヒモのほつれた革靴を磨いてる姿が好きなの。
 レコードのために食事を抜いてしまうような、そういう男の子に憧れて
いた頃もあった。だけどアナタは働くのが嫌だから食事を抜いてしまう、
本当にどうしようもない人なのよ。
 また同じ服を着ているのね、って。その髪の毛だって自分で切ったんでしょう?
 ほら、前髪がとても短いわよ。変なの。

 USBハブから伸びたコードが、私をつつむように、くるむように、アナタの
キスを待っているの。

 一番好きな服でアナタにあえたら、どんなに素敵なのでしょう。だけど
この服には、どうしてもこのブーツなのよ。わかる? わからないわよね。
 でもアナタはこのブーツを好きにならないから、私は二番目に好きな服を
しかたなしに着ていくの。本当は、一番素敵な私を見て欲しいのにね。

 アナタはまた同じ服。

 「デート」

 いくつになってもわたしはおんなのこ。いちばんすてきでいたい。

clearloversoul* 2000.09.13.LOG

『彼の告白』

 本当のことを言えば。

 僕は一人の女性しか愛してなかったんだと思います。ずっと、ずっと前から
一人の女性ばかりしか見ていなかったんだと思います。結果的に言えば、
僕はその女性とは結ばれなかったわけです。そして、あなただって心当たりが
あるように、その女性は僕の心に染み付きました。
 一生取れない影となって、僕を悩ませるようになってしまったのです。
 僕はその後、誰と付き合ったとしても、その彼女の面影を探していました。
 仕草、声、笑顔、何だってよかったのです。どこかに彼女の面影を見つけては、
その部分だけの恋人を愛しました。
 僕にとっての「愛」とは彼女のことだったし、僕にとっての「幸せ」や「人生」
だって、なにしろなにしろ「殺意」だって全て彼女だったのです。

 もちろんそんなわけですから、僕の恋愛はいつだってカタワみたいな
ものでした。メクラな僕は、まるでデタラメな恋しかできずにいたのです。
 足を引きずりながら、彼女の面影を探し回りました。誰だってよかった
のです、誰だって彼女の残像さえ持っていれば構わなかったのだと思います。

 そんな時に、君が現れました。彼女の面影をまるで持たない君は、
無防備な僕の心に入り込みました。
 面影を持たないどころか、まるで正反対。笑ってしまうようなデタラメな
君に、僕は、なんというか、本当に笑ってしまったのです。
 かんというか、こんな自由な気持ちで女性を見たのはどれくらい
ぶりなんだろうと思いました。あはは、まったく僕は何をやっていたんだ。
 そう思うと笑えてきます。まるで無駄な時間を過ごしてきただけなんじゃ
ないのか、と。
 君は僕を警戒しました。変な人、と。そりゃあそうです、僕はずっと
笑い続けているんですから。

 あははは。

 あはは。

 そのうち、君も何だかおかしくなったみたいで、あはは、と笑い
ました。僕と君は少しだけ仲良しになったような気分になり、
そのまま笑い続けました。あはははは。
 仲良くなった僕達は、そのままたくさんお話をしました。
 そうして、君も僕と同じように思い出に足を取られて、
ぬかるみの中で殻に閉じこもっていることを感じたのです。
 僕は君をどうにかしてあげたいと思いました。もしかして
僕に何かできるかも知れない、と思いました。
 もしかしたら、まるでデタラメな君の、ときおり見せる
可愛らしい笑顔を、もっと、たくさん、見ることができるかも知れない。

 その時に気づいたのです。僕が探しているのは、君の見せる
笑顔なんだって。もう、あの女性の面影なんてどこにも探して
いなんだって。

 それが、君のことを好きになった理由のひとつなのです。

clearloversoul* log (old text)

「アイスル」

まるで何も無い箱の中でこうして
出会ったのだから、いつまでもク
ヨクヨしてないで僕と愛し合うの
はどうだろう。君は何かしら僕に
興味を持っている訳だから、何も
ためらう事はないよ。だってもっ
とどうでもいい事で君はクヨクヨ
してきた訳だし、いい加減にそん
な事にも飽きてる頃だという事は
僕でも気付いているからね。




だけどあなた、こんな事言うのは
あれなのだけど、私はあなたの事
を何も知らないのよ。なにひとつ
、ね。それであなたと愛し合えっ
て言う方がおかしくないかしら。
ねえ。




何も怖がる事はないさ。何も不安
な事は無いんだ。僕は君を愛して
いるからね。愛なんて言葉を軽々
しく口にするものではないけれど
、事実は事実として受け止めなく
てはならない。




ねえ、あなただって私の事を知ら
ないのよ。それなのにどうして私
を愛する事ができるの? なんで
そんな事が言えるのかしら。まだ
あなたは私の事を、何ひとつ(何
一つよ!?)知らないのに。ねえ
、何故なの? 何故なのか答えて
くださる?




それは僕が何も知らないからさ。
君の事を知ってしまったら、僕は
君を心から愛する事なんてできな
い。君だって僕の事を知ってしま
ったら愛する事なんてできないだ
ろ。だから僕らは、何も知らない
ままで愛し合うんだ。お互い、な
にひとつ知らないままでね。

 結果的に言うと、あなたは僕を必要としなくなっただけで、それはどんなに
きれいな言葉で塗り固めたとしても、僕にとっては同じことだった。
 あなたは自分が汚れない為に様々な言葉を使ったけれど、どれも僕には
笑い話にもならない、本当にくだらないセリフばかりだった。
 正直に言うと、僕は今でもあなたを愛している。あなたと行ったホテルの
部屋のナンバーを全て覚えているくらいに。
 受付でキーを受け取り、不安定なエレベーターを使い(その間に僕はあなたに
キスをする)、安っぽい内装の部屋に着くまで、全てを克明に思い出せる。
 あなたが僕の脱ぎっぱなしのスニーカーを丁寧に揃えたり、シャワーで火傷
しないように温度をみてくれたり、コンドームの場所を教えてくれたり、ともかく、
その全てを僕は覚えているんだ。
 髪の毛を濡らしたあなたは美しかった。我慢できずに飛びかかろうとする
のをキスでおさめて、吸い殻の無い灰皿に指輪を落とした。乾いた音を聞きながら、
僕はあなたのことを想像していた。どんな声を出すんだろうって、考えていたんだ。
 僕はあなたが初めてだったから、実はとても緊張していた。あなたの裸を見て
胸を舐めているまではよかったんだけれど、それから萎えてしまった。そんな僕を
あなたは優しく抱いてくれて、ゆっくり舌でなぞってくれた。それでも僕のものは
柔らかいままで、あなたは手で僕にしてくれた。
 あなたは優しかった。酔っていたからだろうか。そういえば僕とあなたは、酔った
時しかホテルに行かなかった。とても残念だと思う。
 あなたは旦那に内緒で僕に会っていると思った。だけどそれは勘違いで、
旦那は知っていた。ああ、また奴と会うのか。せいぜいガキ作らねえようにな。
僕の知らない旦那は、そんな風に言ってあなたを抱いていた。
 あなたから血が出ている間も僕はあなたを抱いた。そのせいで僕は病気になって
病院に行くはめになってしまったけれど、僕はあなたを愛していたので問題はなかった。
 ついにあなたは、僕を必要としなくなった。それは呆気ない程に、唐突で、必然だった。
 僕はセックスではいかなかった。だからいつもあなたに見てもらいながら、自慰行為を
続けた。その日も僕は自分で出し、その後であなたにキスをした。何気ないキスの
終わりに、あなたは言った。
 その言葉を僕は覚えていない。それはありきたりな別れの言葉で、特に珍しくも
なかったと思う。それでも僕は泣いて、衝動的にあなたを殴った。僕はごめんなさい
ごめんなさいと何度も謝ったけれど、あなたは笑っているだけだった。何度あやまっても
あなたは笑っているだけで、それが逆に二人の間が終わりだという決定的に事実として
僕を締め付けた。
 あなたが言うから全てを捨てたっていうのに。
 それからあなたと僕は会っていない。だけど僕はあなたを愛してる。どうにも
ならない気持ちを抱えて、一人で生きていくことにした。僕にあなた以外の女性は
必要ない。あなた以外は女性じゃないと言ってもいいかもしれない。あなたはそれを
知っていながら、僕の元を去った。そもそも、僕の元に来た覚えはないかもしれない。
 ああ、愛してる。だから僕から離れないで欲しい。何度言っても無駄なのは
知っている。だけど僕は、あなたを愛しているんだ。早く戻ってきておくれ。
 僕は全てを知っている。あなたはもう戻ってこないことを。そして、僕はあなたを
一生愛し続けることができないことも。それでも僕は思うんだ。
 あなたを一生、愛してるって。


clearloversoul*2001.01.03.LOG

■「ネットでの恋愛は嘘っぱち」

 まず、ネットで恋愛というと何でしょう? これには数パターンあると思います。
「掲示板で知り合う」「チャットで知り合う」「サイトを知って友達になる」などです。
つうか他にあんのか? あったら教えてくださいって感じですが。まあ、こんなもん
ですわな。あ、あとICQで知り合うってのもあるけど、これは例外なのでまあ置いといて。
 で、これに共通することをあげてください。はい、わかりますね。つうかわからないわけ
ないですね。そうです、はいそうです、その通りです。
 感情の伝達手段が主に文章ってことですね。つーかネットだから当たり前なんだけど。
 でも、この当たり前が結構罠なんですよ。なんの罠かつーと「恋しやすい」って罠なん
ですよ。罠なんですよ、って全部ひらがなで書くと「わななんですよ」って変よね。「わななん」の
部分が特に変ですよね。どうでもいいですけど。
 まーずー。感情の伝達手段つうか情報の伝達つうか、ようするにコンタクトとると
したら文章しかないじゃないっすか。それでね、この文章ってのが、わりと読み手に依存
するんですよ。はいこれが落とし穴。もーねー。
 女の子にとってAという文章でも、男の子にとってはBという文章になってしまうくらい、
送り手と受け手の受け取り方は違うんですよ。これが。マジで。
 わかりやすくメールとかを例にしましょう。

「こんちわー! この前はメールくれてありがとう! とても嬉しかったです!
今度オフでもしましょうね☆ またお返事くれるのまってます。 さなえ」

 とかだとするじゃないっすか。これ。ほら、もうあれでしょ、男の子にしたら
「こいつ、俺にラブってる?」と思うくらいの文章なんですよ。だけどこれ、女の子
にしたら「普通っす(素の顔で)」じゃないっすか。ねえ。これ。どこでどうそういう
相違が生まれるのでしょうか。まず「こんにちわー!」これは問題ないです。はい、
だって挨拶だもの。僕だってするさ、こんにちは。次の「この前はメールくれてありがとう!」
これ問題。これ問題。これは大問題ですよ。女の子にしたら「この前メールくれた」という
ただそれだけの文章ですが、男の子にしてみれば(つうか俺にしてみれば)「俺からの
メールを覚えててくれたんだ!」となります。つまり「俺からのメールを待っててくれた
んだ!」となります。つまり「俺のこと待ってたんだ!」となるのです。
 はい、ぶーぶー言わない。女の子、嘘だと思うでしょ? でもこれマジよ、マジ。
 男の子ってのは、それくらいブットンダ思考の飛躍をします。これが普通です。スタンダード。
 しかも次がこれです。「とても嬉しかったです!」ですよ。あなた。どうしますか。
女の子にしてみれば「メール貰いました」ってだけの内容ですわな、こんな言葉は。しかし
男(つうか俺)からしてみれば「嬉しかった」なのですよ。わかる? ハッピーだったのよ?
しかも普通のハッピーじゃないの「とても嬉しかった」なの。そう、「ベリーハッピー」なのですよ。
 映画の字幕とか考えてごらんなさいよ、ベリーハッピーとか役者が言ったら字幕はどう
出るの? そうね、そうよね。「最高だぜ」とか出るわよね。つまりそういうことよ、「あなたは
最高よ!」ってことよ。とまあ、これくらいまでねじまがって解釈しますよね? ここまで
で、かなり男の方はテンパってきます。なにせ「あなたを待ってたの、そしてあなたは最高なの!」
と冒頭で言われてしまうわけですから、いわば祭りです。
 祭り太鼓が響く中、文章を読み進めます。「今度オフでもしましょうね☆」ですよ。わかって言って
んのか早苗さんよお! と思わず胸ぐらを掴みたくなってしまいますよね。いいですか、「今度オフ
しましょう」だったとしてもですね「今度会いましょう。来週とか」などと男の中では膨らむわけです。
それが今回に限っては、「今度オフでもしましょう☆」ですよ、この「でも」が大事なの! つまり
「今度オフとか、デートとかフェラチオとかしましょう☆」ってことですよ! だって「でも」なのだもの!
オフだけじゃないのだもの! さらに言えば「今度フェラチオしましょう☆ 来週とか」ってことでしょ!
 そうでしょ! つうかそれ以外に何があんのさ! なあ! おい! ってなもんです。
 そして最後に「またお返事くれるの待ってます」で結ばれるのです。「あなたのイチモツをむしゃぶる
のを待ってます……」って解釈になるわけですよお客さん。ええ! これ! まっ、じっ、でっ!

 とまあ、これが正常な男子の脳なんですけども、女の子にしてみればまるで違います。今度は
女の子サイドから見てみましょう。「こんにちわー! この前はメールくれてありがとう! とても
嬉しかったです!」ですが、ここまでの文章は既にテンプレートです。メールソフトを起動して、
誰に送るかを設定しただけで、上記の文章は出現します。つまりこれは「挨拶も挨拶、それこそ
会釈程度」なのです。この時点ですでにすれ違いが起こっていますね。男の子は滅多にメールなんて
届きません。だから返事は必死で書きます(もちろん女の子だけに)。しかし女の子からすれば、
男からのメールなんぞ山ほどくるわけです。それにいちいち返事を書いていたら切りが無いわけ
ですから、文章の使いまわしをしたりするものです。最近ネットが一般化して女の子の割合が増えた
といいますが、それは嘘です。何故なら、いわゆるもてはやされているネットアイドルのツラの中途半端
っぷりを見ればわかると思います。そうです、本当に女の子が増えているのなら、あんなツラでアイドルを
気取れる訳がありません。いくらコスプレしているとは言え、それでも限度ってものがあります。
 ともかく、異性からのメールに飢えていない女子は、そういう理由でテンプレートを各種持って
います(もちろん一部にはそうじゃない人もいますが、いちいち例をあげていくと切りがないっちゃ)。
 そして「今度オフ会でもしましょうね☆」です。これにはどういう心理が隠されているのでしょうか?
 これは「今度うちのサイトが100万ヒット記念でオフ会するから、おまえも私を崇めに来い」
くらいの意味があると思って間違いありません。女子サイトに集まる男の子は、頭の中は「やれるかも?」
という意識しかないのです。これを「私には彼氏がいます!」とか「○○くんとは付き合えません」
などと斬り捨てていては立派なネットアイドルにはなれないのです。「やれるかも?」という心理を引き出し、
崇めさせ、熱狂的にまで祭り上げさせる。訪問客をそこまで育ててこそ、一流のネットアイドル(及び
女子運営サイト)です。あ、もちろんやらせません。今度新しく創刊するインターネット系雑誌の編集者
に「うちでコラム書かない?」と言われた時しかやらせません。今度新しく放送するインターネット系テレビ
番組のADに「うちでネット事件を紹介しない?」と言われた時はCSならやらせません。地上波ならやらせます。
 そんなこんなの「今度オフ会でもしましょうね☆」です。あくまで「会」です。二人きりなんぞで会いません。
 そして最後に「またお返事くださいね! さなえ」となりますが、これもテンプレートです。つまり事実上書いてる
文章は「今度オフ会でもしましょうね☆」という「最近こいつ他のネトア(ネットアイドルの略らしぞ!)のBBS
にカキコ(書き込みのことだ!)してるから、ちょっくら忠誠心をあげとくか」的な、外交文章のみだったのです。

 いやあ、同じ文章でもここまで違う解釈ができるんですよ。怖いですね。しかしネットの不思議なところは、
それで成立してるというところです。お互いに真意を抱えたまま、上辺だけの文章で仲良くなってしまう
ところがネットの魅力であります。
 あげく、なんだかしんないけど付き合っちゃうまでに発展してしまうことがあります。摩訶不思議です。

 さて、このネットアイドルにメールを送りつづける男の子(なぜかそういう設定になってます)、仮に
名前を由一くんとしましょう。そしてこのストーカーちっくな被害にあってるのを早苗ちゃんとします。
 由一くんは勝手に「脈ありデスナ!」とか思ってメールを送り続けます。そして早苗ちゃんは、
そのメールを「熱心な兵隊からの定期連絡」として受け続けます。しかしここで一定のアクシデントが
起こると、二人の仲は急速に接近してしまうのです。
 例えば、この早苗ちゃん。付き合っていた彼氏にやるだけやられて捨てられたとします。もちろん
それを引き金にマッシブな世界へと足を踏み入れ、売春(何故か)、ドラッグ(何故か)、自殺未遂(何故か)
とありがちな方向へ進んでいきます。散々カウンセリングなどを受け、精神的にボロボロになって
部屋に戻るとパソコンに目がいきます。久しぶり(三ヶ月くらい?)に電源を入れると、自分のサイトには
熱心なファンからの書き込みがあふれています。「更新しないのですか?」「心配です」「何かあったのですか?」
など、どですかでんなみに純粋な書き込みに涙が溢れてきてしまいます。さらにメールチェックをすると
一瞬メールボムかと錯覚するほどのメールが届いています。それは彼女を心配するファンからのメール
でした。内容は掲示板とかわらないものの、その熱意に嬉しい気分になります。そして一番多くメールを
くれていた由一くんに電話をかけようと思うわけです。以前は電話番号を教えてもらってもかける気ゼロ
でしたが、自分がヘコんでる時だけは違います。涙声で由一くんに電話。

「早苗さん、どうしたんですか? 更新しないからみんな心配してましたよ」
「うん……色々あって」
「大変だったんですね」
「彼氏に……振られたりとか……(大意)」
「……そっか」
「だから……しょんぼりしてて」
「……大丈夫、俺がいるから(タメ口)」

 その一件から、由一くんは早苗さんに電話をするようになります。早苗さんは内心ウザいと
思いながらも、電話でもしてないと手首やっちゃうので、無理からに電話に出るようになります。
 すると二人の距離はほんの少しずつですが近づいていくのです。そして早苗さんは、うっかり
由一くんに「恋」という名の「現実逃避」をしてしまいます。
 さて。一度レールに乗ってしまえば簡単です。あとは由一くんが以前の勘違いっぷりを
キープして「俺が君を守る」「幸せにする」などの言葉を、普通のメールなのに連発してしまえれば
オッケイ。女の子は基本的に夢見ちゃうので、さすがの早苗さんも自分のペースを忘れてしまいます。
 しまいには共同でサイトを作ったり、ICQで卑猥な会話をしたりで、いよいよゴール寸前。スピードに乗って
しまえば一瞬なのです。
 さて、ここで大事な問題が出てきます。由一くんは早苗さんの顔を「アバウトミー」と「ギャラリー」のみで
知っていますが、早苗さんは由一くんの顔を知りません。本来ならばここで気づくはずです、ツラ画像も確認
しないでオフするのはヒモ無しバンジーより危険だと。しかし早苗ちゃん、もう持ってかれてます。こう
なってしまうと、何もわからないのです。そして二人きりのオフを平日の昼間から開催することになります。

 アルタ前とかで待ち合わせ。早苗ちゃんはゴキゲンです。ちなみに、まだ会ったことのない二人
ですが、既に付き合っていることになっています。これはチャットやICQなどで告白を済ませ、
さらに「俺たち恋人だよな?」「……うん☆」などとゲロが出そうな会話をしたため、そういう状況に
なっているのです。早苗ちゃんからすれば「会うまで待てないなんて、よっぽど私を愛してくれて
いるのね」などと思っているようですが、由一くんから言わせれば「ツラ見て逃げられる前に、
心理的に拘束するなり」という、ネットの男の子ならば誰もが持っている策略でした(もちろん
早苗ちゃんは「会ってもないのに付き合ってるなんて変だよ」と言いましたが「俺のことが好きじゃない
のか?」などといつの間にか上からの発言をされてみたりして、うっかり「恋人……ダネ☆」とか
返事しちゃったので、そういうことなのです)。
 早苗ちゃんはアルタ前にて由一くんを待ちます。もう気分的には付き合って数ヶ月の恋人です。
 やっぱり男って顔じゃないわよね、性格よね、と、無意識で防御姿勢をとりながら由一くんを
待つのです。すると目の前に豚の死骸が現れます。
「あら、どうしてこんな所に豚の死骸が?」
もっともな疑問をもつ早苗ちゃんに、死骸は答えます。
「オフでは初めまして、だね。由一です」

 普通ならばそこで終わります。早苗ちゃん、逃げ出して終わります。しかし、早苗ちゃんも
「私達の運命の赤い糸は、電話線だったんだね」くらいのことは言ってますから、後に退けません。
 さらに、ここで「顔が豚の死骸のようだから」という理由で彼を振ると、彼のパソコンに残っている
エロICQやエロチャットなどのログの行方が心配です。
 そこで早苗ちゃんは、ネットフィルターをかけます。これは「こんなツラだけど、あのサイトの人だから」
とか「こんなに臭いけど、文章は素敵だから」という自分に都合のいいフィルターで脳を麻痺させます。
 するとあら不思議、ものすごい我慢すれば見れないことも無い程度の顔になります。そこに今までの
自分の感情の高ぶりをプラスさせ、なんとか彼の手を握ります。
 その時の彼の「ネットの画像と実物の顔、違うよね」なる言葉に殺意を覚えたとしても、それは
理性で抑えなくてはなりません。なにしろ彼は、既に彼氏です。そう、ネットで約束してしまった
恋人同士なのです。

 こうして「ネットで付き合ってるんだから、会ったらセックス」という猛烈に恐ろしいけれど、わりとみんな
大人なので普通に行っている常識に飲み込まれ、早苗ちゃんは由一くんの童貞を頂いてしまいます。
 ベッドの中のトークは終始ネットよもやま話。どこのサイトが嫌いだとか、どこのサイトの誰と誰がやった
だとか、脳みそ腐ってるのじゃないかしらという話題で時間は過ぎていきます。
 そして再会を誓って帰宅。ちなみに由一くんは新幹線で来ました。恐ろしいですね。

 とまあ、ここまで読んで頂いてわかる通り、ネットで起こる恋愛は幻です。ネット恋愛なぞ成立しない
のです。言葉としてのみ存在する恋は、言葉のみで息づき、そして現実の中で消えていきます。
 しかし、ネットが恋愛と関係ないかというとそうではありません。何故なら、ネット恋愛は成立しなくても、
ネットから始まった恋愛は頑張れば成立するのです。今までのネットとしての人格を踏まえた上で、
もう一人の人格としてリアルな恋愛をきちんとすれば、それの行き着く先は破滅ばかりとは限りません。
 かくいう私もネットで知り合った女の子と付き合っておりますし、彼女のことを愛しています。
 今はウマクイッテンダカイッテナインダカワカンナイ状態ですが、一秒でも、そして一瞬でも彼女と
一緒の時間を過ごしたいと思います。

 なんだか、うまくまとめようとして全然まとまりませんでしたが。現実世界では恋愛のできない
恋愛障害者が、ネットで別人格になったり、性根を隠して恋愛するのは悪いことではありません。
 しかし、いざ会うとなればその時こそ本当の自分がさらけ出されるわけなのですから、結局の
ところ最後に頼れるのは本当の自分自身なのです。
 うまいこと言おうとして失敗しました。

 まあ、そんなとこです。

日記 031015

 なんというか、大げさでばかばかしい話かも知れないのですが、小説を書いていると
たまに物語の世界の中に取り込まれそうになって、ワンワカヤーンと大変な感じになります。
 アホらしーあっけらかんとした内容なら平気なんですけど、精神的なあれとかだとしんどいです。
 アウトプットはライトになってるはずなんですけど、インプットとMIX中はかなりハードコアな
精神状態でして。ええ。そういうね。わかりにくいですね。
 ともかくですな、頑張って生きてますよ、という感じです。だから僕の本とかが出たら、頑張って
読んでください。いや、頑張らなくてもいいですけどね。はい。